
付いてきちまった小っこいのもチャンと連れてってやらにゃあならん。
まぁ下りだから歩けるだろうけど、逸れたりはすんなよな。

登りは只管、頂上を目指しとりゃあ大して心が萎えんモンだ。体力は消耗しとらんし、概して頂辺は見えないし、なんだかちょっと、苦労を撥ね付け進むヒーローになれそうな気がするしで、足取りは意外に軽い。
んでいざ頂上に着いたら、達成感と期待通りの絶景が待っとるワケだ。
対して下りはなんとも切ない。もう少しユックリしたいのになぁ的に後ろ髪を引かれつつ、今度はハッキリ窺える遥か麓を目指して歩くのが結構辛い。
更にワシの場合、20歳の頃にやっちまって医者に診て貰っても未だになんだったのかよく判らんのだが稀に軋む右膝にもソレナリに、1歩毎にミシミシと応えるんだな。
一旦頭を過るとドンドン気になってくる。歳を考えてケアせんとな、サポーター着けてくりゃヨカッタ…

イヤイヤ、連れ、母娘犬、ソレに小っこいのにバッチリ付き合ってくれとる何処ぞの犬だって居るんだ。この状況で弱音は吐けんぞ。
村はしかし未だ遠い。兎に角暗くなる前に…

フと振り返れば小っこいのが気丈に付いてきとる。
会った時ゃ白くてフワフワだったのに、随分茶色くなっちまったなぁ。
コイツだって文句も言わずに歩いとるんだ、負けてられんぞ。

急いどるのに途中目前を仔牛が横断。コッチの犬達のテンションが一気に上がる。
後方からお母ちゃんと思しき牛さんも。いいから早く渡っちまってくれ。

そんなこんなで一端休憩。娘犬は怨めしそうな目で2頭を見送る。
どうせ吠え立てるだけだろ? 勇ましいのは宜しいが、余計な騒ぎなんて起こすなってんだ。

けれどなんだかんだでかなり下ってきたね。牛さん達が見えなくなったとこで再び前進。
確認したら頂上を発って20分程。なんだ、いろいろ悶々としたクセにサラッと下りてきたんじゃないか。

間もなく山口の森林局ガーデン着。暗くなっちまったらどうしよう? なんて心配した割りにゃあ日没までかなり時間があるうちの下山だねぇ。
トロミロはどうか知らん? とプランテーションを除くくらいの余裕まで。残念ながら花は付けとらんな、つかどの季節に花を付けるんだか? 復活する日はくるのかなぁ?

小っこいのとはココで会ったんだ。
お前はこの辺で飼われとるんだろ? そろそろ別れよう、飼い主サマに心配されるぞ。

ほいじゃあねと挨拶して、小っこいのを残してワシ等は家路に。
道程は未だ遠いぞ。家に帰んなきゃ飯はないんだから。

フッと振り返ると小っこいのがチョロチョロ付いてくる。
お前戻らんとダメだよ、ワシ等とこのまんま一緒だったら迷子になっちまうだろ…

付いてくんなと嚇したり小石を放ったり、幾らやってもチョロチョロと…
もうどうしたら好いんだか解らなくなった時、スクーターに乗った若いあんちゃんが擦れ違い様に 「ミヒウア! なにやってんだっ!!」 と。
「お宅の犬なの?」 訊くと、 「ソコの浜に連れてきて遊んでたら居なくなっちまって…」
3時間くらい一所懸命探しとったんだとか云々。名を呼んで小っこいのの反応具合からすりゃ、飼い主はこのあんちゃんで間違いないだろ。
一緒に登山しとった事情を説明して取り敢えず一件落着。
「ありがとなー」 とあんちゃんは、スクーターに小っこいのを乗せてニコニコで去って行く。コッチこそ、ご主人様が見付かってホッとしましたよ。

来しなに撮ったレストランまで戻ってくる。
なんかちょっと淋しくなったな、まぁ暗くなる前にココまで来れてヨカッタ。

流石の娘犬もそろそろ疲れ気味。
もうちょっとで家だぞ、踏ん張れよ。

空港ターミナル前。我が家は目と鼻の先。
さぁもう一踏ん張りだ、間に合ったねぇ。

その角を曲がりゃあ知った眺めだよ。
母犬はもう解っとるのか、黙々と歩く。

散歩出発直後に姿を消したご近所さんのモトの出迎え。ココからウチまで護衛に立つ。
弱虫め、立派なガタイしとって知らん犬にゃあ尻尾巻くんだから…
んま、お前が居らんかったから小っこいのが付いて来れたのかも知れん。結果オーライか。

ともあれお疲れさん。今回の散歩は試練だったわなぁ。
心做しか、母犬の表情がいつもより可愛く映る。一緒に乗り越えたんだもの、よく歩いたよ。

新しいトモダチもできたしね。
また逢える事があったりするのかねぇ…?
どうあれ、元気で可愛がって貰えよなー。